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#2010.11.09 Tuesday    残す爪痕は鈍く、蜜を湛えて(mark)
 真面目なマク。
 




 停滞する時間は物理的に不可能なのだ。量子的に鑑みてそれは有り得ない。でも、己はそうであってこれ程胸を撫で下ろしていることを忘れない。指先を握られる。頼りない細い指先が絡まる。何でもない貌をして、見下ろす。陋劣、結構なことだ。構わないと思う。それが自分の今の立ち位置で宿命で、義務だ。
 無言で朗笑を送る。何でもない貌をして。少女の顔を見遣る。整った白い面立ちに紫鳶の髪が掛かり、陰をつくった。必死に笑みを乗せようとしている唇が遣瀬ない。どうしようも出来ないし、そうした原因をつくりあげたのは、紛れもない己だという事実が眼前に提示される。
 おはよう、から、おやすみの挨拶。弟の身体を借りて、己の意志が健在することを知ってからの習慣だった。彼女の前でだけは、隠さずに居られた。昔の己がそのまま、ここにあった。もうあってはいけなかったのに。圧死した虫は再び羽根を動かすことも足先をひくつかせることすら出来ないというのに、だとしたら己はなんなのだろうか。シュタイナーでなら解き明かせる神秘学の一部に組み込まれてしまった。
 ゆっくりと指先が、指先の感触を確かめるように触れられていく。あまやかな実感。片割れが感じず、その中に割り込むようにして入った己だけが感じることのできる実感。あってはならない実感。心の何処かに、そう感じることが出来ることに喜悦を覚えている部分があった。なんて下賤な。なんて矮小な。圧死した虫よりも下位であって当たり前だと、素直に思った。
 どうしてこうなったのだろう。偶に思うのだ。何故ここにいるのだろうか。その瞬間から存在意義なぞ心底から否定するようになった。終わったのだ。泡沫にしてはあまりに残酷過ぎる。
 それは周りにも、己にも。
 彼女の想いを知っている。片割れの想いも知っている。理解しているのに陥ったこの構図に、正直、厭気が刺した。
 己が根底から消滅すれば全ては正位置に戻るのだ。唐突の番狂わせが、己なのだ。
 まだ成熟しきらない少女の指は、引き留めるように絡まる。この時、彼女は決して己の目を見ようとしない。熱を持った鳶の瞳が何を物語っているか、知ってしまっている。だからこそ余計。苦しくて仕方がない。
 弟の身体から意識が降下するときの、儀式のようなものだった。彼女は己の指先を握って、離そうとしない。決して。少女が抱く情愛の念を知っていながら、全てを振り切るように、言うしかなかった。
「おやすみ、カミーラ」


2010.11.05 (残す爪痕は鈍く、蜜を湛えて)

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