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#2010.11.09 Tuesday    きみはいつも、したり顔でリバーヴ(michele*camilla)
 保存協会に入って、ちょっとしてからのお話。
 




 目の前の人間を戸籍上で分類しても、生物学で分類しても、どう足掻いても、何を血迷っても二の足踏んでも、女という種類になるのだと今更ながら実感する。石鹸と花となにか不思議と綺麗なものでも混ぜたかのような甘い匂いが鼻につく。夜着代わりのシャツ越しに伝わってくる体温は円やかだ。か細いラインを描く部分だって嫌味でなく柔らかなのだと、この歳になって初めて知った。華奢な身体の何処に己の手を置いていいものか、本気で悩む。躊躇。
「――カミーラ」
 幼馴染みの名を呼ぶ。軽く視線だけ寄越して来るものの、すぐにそれは逸れる。自身の心音が早くなるのがよく判る。判りすぎて斬り捨てたいぐらいだ。どうしてこんなことになったのか、ミケーレは訊いて回りたいくらいだった。時空でも超越して、タイムパラドックスも無視して数分前の自分に警鐘を送りたい。寧ろ介入が可能なら断固阻止したい心持ちだ。幼馴染みは上機嫌だ。ミケーレは焦るばかりだ。
「冷たくて気持ちいいー」
 語尾が伸びた、ほわりとした口調だった。ミケーレ自身はこんなに動揺しているのに、羨ましいばかりだ。
 カミーラの人より小さな掌は、今はミケーレの耳に伸びていた。指先が満遍なく、左の耳朶に触れていく。軽く摘んだり、揉んでみたり。耳の感触を楽しんでいるのか、人の気も知らないで先程から数分間続いている。飽きてくれるものなら飽きて欲しいが、幼馴染みの性格を熟知しているミケーレからして、その結末は望めない。カミーラは何か一つに固執することが得意だ。小さな頃からそうだった。というか、自分と兄を含めた三人は、何かとそういうことを得手としている節がある。似ているのだ。
「いい加減やめろ! というか何で僕の部屋に勝手に入って来ているんだ!」
「だって寒いんだもの。今日は今年一番に冷え込む夜だって、ラジオで言っていたわよ。聞いてなかった?」
「だったらそれ相応の対策を練って早く隣の部屋に帰れ! 暖房具がない訳じゃないだろ……!」
「良いじゃない、別に減るものでもないし、この方が暖かくて経済的よ。灯油使わなくて済むんだから」
 この煉瓦造りのアパートメントは、アメリカンウォーターフロントの風景によく馴染むもので、ミケーレ自身は結構気に入っていた。保存協会会長が何かの伝手で昔手に入れたというこの建物は、今は希望する協会員達が住む住居となっている。職場から程近く、交通の便も悪くない。ケープコッドから移り住む際に、どうせなら、とカミーラと二人で申請して借りた部屋は、今ではすっかり昵懇とでも言うべき存在となっていた。カミーラとミケーレの部屋は隣同士。玄関の深緑の扉の真鍮のドアノブを回して六歩もすれば、もうお互いの部屋となる。会長が気を利かせてくれて、今の部屋割りになったのだが。何故隣の部屋に住んでいる筈のカミーラが、こうしてミケーレの耳朶を好き勝手に弄り回している状況下にいるかというと、合鍵を持っているからだった。お互い。これはこちらに引っ越して来たときに両両親に言われたことがきっかけだった。“都会はなにかと物騒だし、独り暮らし、何かあってからでは遅いから、お互いの部屋には行き来出来るようにしておきなさい”。部屋が隣と決まる前からそう言い含められていた。まあ、同郷なのだ、別に何に使う訳でもないし、親同士もお互いに間違いがあるとも思ってもいなかったのだろう(若しくはそうなっても良いとでも思っていたのだろうか)、合鍵は部屋が決まった一週間後には手元にあった。
 しかし、今ではとても、心底、徹底的に、それを後悔していた。
 自身は、実は一度も合鍵を使用したことがないが、彼女は違った。ちょくちょくと、何かと合鍵を使って勝手に人の部屋に入り込んできていた。それでもミケーレは、プライベートだ、等と思うこともなかったが。あまりに幼いころから一緒に居すぎて、そういう感覚も麻痺していたのだろう。もう半分家族みたいなものだ。兄妹に勝手に部屋に入られているとか、その程度の感情しかない。
――というのが、数分前までの持論だ。
「相変わらず長い睫毛……いいなあ、わたしより長いってどういうこと? 女の子の敵よ」
 知るか。
 一喝して追い出してやりたかったが、心臓が口から出そうでそれどころではない。さっき反論したので精一杯だった。もう、色々と限界だった。カミーラが何も言わないということは顔は赤くなってはいないのだろう。それがせめてもの救いだ。
 生まれてこのかた、恋をしなかった訳ではない。初恋だってしたし、それから恋だってした。どれもひとつも実ることはなかったけれど。別にそれを悲懐している訳でもない。仕方のないことだったし、落ち着くところに落ち着いたと言うべきだと、思っている。今も急いて誰かと関係を結びたいと求めてもいなかった。
 ということで、女性経験は皆無に等しい。
 そんな自分に、今のこの場をどう乗り切れというのだろうか。
 今日は保存協会での仕事が終わって、帰宅し、家で適当にあるもので夕食をつくり、それを本を読みながら食べ、明日に備えて早めに就寝した。確かに寒かったので毛布を首まで被って眠った記憶がある。意識が落ちる瞬間に、寒い、とも感じていた。それが、急に浮上した時には、既に暖かいという感覚があった。それと、耳元を何か柔らかいものが撫でている触覚の訴え。独りの生活に慣れきったところで、あまりに異常な感覚に目を開けてみると、目の前に、紫鳶の髪が映り込んだ。
 眠っている間に伸ばした右腕に小さな頭を乗せ、カミーラはご満悦の様子で毛布に潜り込んでいた。必然的に腕枕となった。叫ばなかった自分を褒めてやりたいが、声にならない悲鳴は確実に、出ていた。
“初恋”の相手が、自分のベッドに、居た。
「君は、いつ入って来たんだ……! というかそもそも何で来た!」
「さっき言ったじゃない、寒いからよ。酷いわね、可愛い幼馴染みが凍死しても良いって言うの?」
「それだけで男の部屋に入るな! 年頃の娘が!」
「ミケーレ……親父臭いわよ」
「煩い! 揚げ足をとるな!」
「だってー。暇だから本でも借りようと思って来てみたら、ミケーレったら、もう寝てるんだもの。それに暖かそうな毛布だったから、昔みたいに一緒に寝てもいいかなあって」
 天使ような満面の笑みで言われても、ミケーレからしてみれば悪魔の微笑みだ。久しぶりじゃない、こういうの。続けて彼女は、無垢な笑顔を向けてくる。先刻からどうしていいか判らない浮いたままの左手はどうしたらいいのだろうか。
 こんなに無防備でいいのだろうか。仮にも女性だ。ミケーレから見てカミーラは、(こんなこと口が裂けても言わないが)幼馴染みの贔屓目を抜いても、可愛らしい、という部類に入るのだろうと思っている。実際、同僚から人気はある。誰にでも屈託のない笑みを向け、性格も明朗だ。何故恋人という影がないのか不思議がられているくらいだ。よく、幼馴染みという経歴を聞き、ミケーレがそれなのではないのかと勘繰られる。現実はそうではない。恋人だったら確かにこんな、勝手に部屋に入られ、寝室まで覗かれ、あまつさえ毛布に入り込んでくるという状況も頷ける。だが違うのだ。違うのに何故そうなるのか。
 幼馴染みだからだ。
 それは、彼女が自分を異性と思っていないのも同然なのだ。
 何か引っかかりはしたが、別にそんなことは構わない。ああ、でも構ってくれたらこんなことにはならなかったのだろうか。ミケーレはなんだか項垂れたくなった。いろんな感情が入り交じって、少し落ち込みたい。
 ミケーレの心情など露知らず、カミーラは小さく欠伸を噛み殺している。うとうととしているようで、危険な雰囲気が、した。
「明日の朝はフレンチトーストがいいな……」
「待て、それは希望かなにかなのか?」
「メイプルシロップはかけ過ぎちゃ駄目よ、ミケーレ、また太っちゃう」
「余計なお世話だ、いや、待て、そうじゃない、カミーラ! ここで寝るつもりか!」
「うん、おやすみ……また明日ね」
 すぃ、と、安らかな(己にとっては不穏な)寝息が耳に届いた。
 暢気な幼馴染みは、そこそこに柔らかなベッドで眠りについた後だった。
 行き場のない右腕に、跳ね上がる心臓、どうしようもない感情が行き来して、卒倒しそうだ。
 眩暈がした。



2010.11.05 (きみはいつも、したり顔でリバーヴ)


でも翌朝ミケは、カミたんの胸に顔を埋めて寝てれば良い(無意識)(そしてむっつりならいい)

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